エピソード

  • ボイスドラマ「龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて」(リマスター版)
    2025/05/10
    桜が舞う季節、私はまた、あの日のことを思い出す。かぐらという名前を授かり、舞姫としての役目を受け継いできたけれど——あの日、鳥居をくぐった先で出会ったのは、伝説なんかじゃない、本物の“奇跡”だった。この物語は、私の心に刻まれた、忘れられない春の出来事。位山の聖域に守られながら、千年の時を超えて、龍が舞った——その奇跡を、あなたに届けたい。ようこそ、『龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて』の世界へ(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:高校のグラウンドで/陸上部の練習】<かぐらのモノローグとセリフで進行>■ピストルの音「パンッ!」〜走る陸上部の少女たち「追い風よ!そのまま加速!インターハイは目の前だからね!」「よしっ!ラスト50!いけるよ!」吹き降ろす風の中、陸上部の女子たちがゴールを駆け抜けていく。みんな順調に仕上がってるみたいでひと安心。私は、かぐら。高山市内の高校に通う18歳。で、陸上部のキャプテン。インターハイに向けて頑張ってきたけど、ブロック大会に勝ち進まないと、その先はない。こうなったら神頼みかな。いや、私がそれ言ったらだめでしょ、ふふ。「さあみんな、日が暮れる前にラスト一本決めよう!いくよ!」もちろん私もみんなと走る。■陸上部員の走る音はあ、はあ、はあっやるしかない。今年こそぜったい・・・インターハイ、行くんだからはあ、はあ・・・■夕暮れのイメージ(ヒグラシ)■陸上部員の走る音■自転車のペダルとベルの音部活のあとは夕陽とかけっこ。高山駅まで3.5kメートル。全速力で自転車のペダルを漕ぐ。だって、4時39分に乗らないと、5時台は列車がないんだもん。■高山本線の車内音高山駅から飛騨一之宮駅までは7分。この時間が一番幸せ。お気に入りのウェブコミックを読む、至福のひととき。ちょうど一話読み切る頃に、飛騨一之宮駅に到着するから。最近のお気に入りは・・・流行りの異世界転生モノ。私、けっこうすぐに感情移入しちゃうんだ。だから気をつけないと。乗り越しちゃったら、次の久々野で1時間待ち!ありえない。って思う人、多いんじゃない?・・・なんて考えてたら、あ、もう着いちゃった。そりゃそうよね。お隣の駅なんだから。■高山本線が到着する音ここから家までは歩き。ゆっくり歩いて15分くらいかな。ゆるやかな上り坂だから、着く頃にはほどよく疲れていい感じ。■カエルの鳴く声宮川を渡り、41号を越えると、周りはのどかな田園風景。しばらく歩くと見えてきたのは、石作りの大鳥居。私は一瞬躊躇する。”夜の鳥居は異世界に通じている”誰かそんなこと、言ってたような・・・あ、さっき読みかけのウェブコミックだ。そういえば、異世界召喚ものだったっけ・・月明かりの下、大きな影を落とす鳥居。その向こうは深い霧に包まれているように見える。どうしようかな・・・いや、だめだ。今夜は神楽舞、練習しておかなきゃ。もうすぐ、大祓えの神事がやってくるんだもの。私は、舞姫(まいひめ)。臥龍(がりゅう)の舞姫。「舞姫」とは聖域で神楽を舞う女性。私の名前が「かぐら」だからってわけじゃないけどね(笑)臥龍の舞姫は龍脈(りゅうみゃく)を読み、龍神と気を通わせて、大地の気の流れを整えるの。あ、龍脈というのは、大地の気が流れる道。修行を積めば龍と意識を一体化して、気の流れを変えることもできるんだ。青龍、赤龍、黄龍、白龍、黒龍という五龍すべてを意のままに。(せいりゅう、せきりゅう、こうりゅう、はくりゅう、こくりゅう/ごりゅう)もちろん、私はまだ修行中。そこまではいってないけど。「臥龍」って「まだ世に知られていない天賦(てんぷ)の才を持つもの」という意味もあるんだ。そうよ。こんなことで恐れちゃいけない。よし。私は、鳥居の真下へ向かって、一歩踏みだした。息を呑む。高鳴る心臓の鼓動。私は心の中で龍神に祈りながら、鳥居をくぐる。その瞬間——■強い風の音「ザァァァァァ——ッ!!」風の渦に包まれ、視界が暗転する。足元が崩れ、身体が吸い込まれる感覚。目を開けた時、そこには境内も絵馬殿(...
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  • ボイスドラマ「龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて」
    2025/05/10
    桜が舞う季節、私はまた、あの日のことを思い出す。かぐらという名前を授かり、舞姫としての役目を受け継いできたけれど——あの日、鳥居をくぐった先で出会ったのは、伝説なんかじゃない、本物の“奇跡”だった。この物語は、私の心に刻まれた、忘れられない春の出来事。位山の聖域に守られながら、千年の時を超えて、龍が舞った——その奇跡を、あなたに届けたい。ようこそ、『龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて』の世界へ(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:高校のグラウンドで/陸上部の練習】<かぐらのモノローグとセリフで進行>■ピストルの音「パンッ!」〜走る陸上部の少女たち「追い風よ!そのまま加速!インターハイは目の前だからね!」「よしっ!ラスト50!いけるよ!」吹き降ろす風の中、陸上部の女子たちがゴールを駆け抜けていく。みんな順調に仕上がってるみたいでひと安心。私は、かぐら。高山市内の高校に通う18歳。で、陸上部のキャプテン。インターハイに向けて頑張ってきたけど、ブロック大会に勝ち進まないと、その先はない。こうなったら神頼みかな。いや、私がそれ言ったらだめでしょ、ふふ。「さあみんな、日が暮れる前にラスト一本決めよう!いくよ!」もちろん私もみんなと走る。■陸上部員の走る音はあ、はあ、はあっやるしかない。今年こそぜったい・・・インターハイ、行くんだからはあ、はあ・・・■夕暮れのイメージ(ヒグラシ)■陸上部員の走る音■自転車のペダルとベルの音部活のあとは夕陽とかけっこ。高山駅まで3.5kメートル。全速力で自転車のペダルを漕ぐ。だって、4時39分に乗らないと、5時台は列車がないんだもん。■高山本線の車内音高山駅から飛騨一之宮駅までは7分。この時間が一番幸せ。お気に入りのウェブコミックを読む、至福のひととき。ちょうど一話読み切る頃に、飛騨一之宮駅に到着するから。最近のお気に入りは・・・流行りの異世界転生モノ。私、けっこうすぐに感情移入しちゃうんだ。だから気をつけないと。乗り越しちゃったら、次の久々野で1時間待ち!ありえない。って思う人、多いんじゃない?・・・なんて考えてたら、あ、もう着いちゃった。そりゃそうよね。お隣の駅なんだから。■高山本線が到着する音ここから家までは歩き。ゆっくり歩いて15分くらいかな。ゆるやかな上り坂だから、着く頃にはほどよく疲れていい感じ。■カエルの鳴く声宮川を渡り、41号を越えると、周りはのどかな田園風景。しばらく歩くと見えてきたのは、石作りの大鳥居。私は一瞬躊躇する。”夜の鳥居は異世界に通じている”誰かそんなこと、言ってたような・・・あ、さっき読みかけのウェブコミックだ。そういえば、異世界召喚ものだったっけ・・月明かりの下、大きな影を落とす鳥居。その向こうは深い霧に包まれているように見える。どうしようかな・・・いや、だめだ。今夜は神楽舞、練習しておかなきゃ。もうすぐ、大祓えの神事がやってくるんだもの。私は、舞姫(まいひめ)。臥龍(がりゅう)の舞姫。「舞姫」とは聖域で神楽を舞う女性。私の名前が「かぐら」だからってわけじゃないけどね(笑)臥龍の舞姫は龍脈(りゅうみゃく)を読み、龍神と気を通わせて、大地の気の流れを整えるの。あ、龍脈というのは、大地の気が流れる道。修行を積めば龍と意識を一体化して、気の流れを変えることもできるんだ。青龍、赤龍、黄龍、白龍、黒龍という五龍すべてを意のままに。(せいりゅう、せきりゅう、こうりゅう、はくりゅう、こくりゅう/ごりゅう)もちろん、私はまだ修行中。そこまではいってないけど。「臥龍」って「まだ世に知られていない天賦(てんぷ)の才を持つもの」という意味もあるんだ。そうよ。こんなことで恐れちゃいけない。よし。私は、鳥居の真下へ向かって、一歩踏みだした。息を呑む。高鳴る心臓の鼓動。私は心の中で龍神に祈りながら、鳥居をくぐる。その瞬間——■強い風の音「ザァァァァァ——ッ!!」風の渦に包まれ、視界が暗転する。足元が崩れ、身体が吸い込まれる感覚。目を開けた時、そこには境内も絵馬殿(...
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  • ボイスドラマ「赤い記憶〜心を映す鏡」
    2025/05/07
    今回お届けするボイスドラマは、高山レッドこと「アカナ」が主人公。祭と屋台を誰よりも愛する、ひたむきな少年が歩む成長の物語です。失われた祭屋台『浦島台』。そして、存在すら知らなかった双子の姉『アカネ』。赤かぶの町、宮川朝市。さるぼぼに宿る祈り。時を超えて紡がれる家族の絆。心の奥に秘めた想いが、静かに、しかし確かに、未来へと動き出します。どうぞ、アカナとアカネの物語を、あなたの胸に刻んでください。本作は、公式サイト「ヒダテン!」をはじめ、各種Podcastプラットフォーム、「小説家になろう」サイトでもお楽しみいただけます。【ペルソナ】・アカナ(16歳)=高山生まれ高山育ち=生粋の高山っ子/祭と屋台が何よりも好き(CV:米山伸伍)・アカネ=アカナの双子の姉(享年1歳)(CV:小椋美織)・朝市の野菜売り(38歳)=宮川朝市で赤かぶを売る/アカネをよく知る朝市の野菜売り(CV:小椋美織)【資料/さるぼぼに顔がない理由】https://column.enakawakamiya.co.jp/gifu/derived-from-hida-sarubobo.html【資料/失われた屋台/浦島台】https://www.takayama-yatai.jp/yatai/lostfloat/urashimatai.html【資料/萬屋仁兵衛工房】https://yorozuya2.jp/the-first-generation-nihei-yorozuya/【資料/白線流し】https://school.gifu-net.ed.jp/wordpress/hida-hs/school_info/hakusen-nagashi/[シーン1:八幡祭】◾️SE:高山祭の喧騒「そうれっ!」(※男衆たちの声)櫻山八幡宮の表参道。絢爛豪華な11台の祭屋台が曳き揃えられる。10月の9日・10日は秋の高山祭。櫻山八幡宮の境内では、布袋台(ほていたい)が見事なからくりを奉納していた。祭と屋台は高山の華!これほど美しくて、荘厳で、人を惹きつける祭などほかにはないだろう。オレの名は、アカナ。高山で生まれ、高山で育った、生粋の高山っ子。飛騨人(ひだびと)だ。生まれたのは、一之新町(いちのしんまち)。(※あえて旧町名にしてあります)桜山八幡宮の参道と江名子川(えなこがわ)に挟まれたエリア。小さいころから桜橋で遊び、秋葉様へは毎日お参りした。いま、オレの視線の先にあるのは、華やかな祭屋台たちの横でひっそりと佇む、1台の志良車(しゅらぐるま)。志良車というのは、台車部分だけが残った屋台のこと。明治8年の大火で焼け残った『浦島台』の志良車である。失われた屋台『浦島台』。記録によると、浦島台はからくりも備えていたらしい。演目は誰もが知る浦島太郎伝説。玉手箱を持つ浦島の人形が屋台のステージをゆっくりと進む。やがて白い鳩が飛び出すと、浦島の顔は一瞬にして白髪の翁に変わる。山王祭(さんのうまつり)で言えば、三番叟(さんばそう)か。『浦島台』の志良車を見ながら、胸の奥に、遣る瀬無い思いが募っていった。[シーン2:宮川朝市】◾️SE:宮川朝市の雑踏「おはよう」「おはよう、アカナ。祭の朝に、朝市なんかうろうろしとってええんか?」「ええんやよ。うちの組は」「ほんなもんかね」祭の2日目。宮川朝市をうろつく。顔見知りのおばちゃんと無駄話。生まれたときから野菜を売ってる隣組のおばちゃんだ。そろそろ今年採れた赤かぶが並ぶ頃だな。「お前いくつになった?」「16歳」「ほうか。も16年か。時が経つのは早えもんやなあ」「年寄りみてえなこと言うなや」「ははは。あ、おいアカナ。腰のさるぼぼとれそうやぞ」「ああ、これな。わかっとる。直さならん。母さん、このさるぼぼ見るといっつも捨てろって言うんや。早よ国分寺でお焚き上げしてもらいやあって」「そりゃ、しゃーないわな。あんま見とうねえやろし」「え?どういうこと?」「あ、いや。なんもねえ」ヘンなこと言うなあ。おばちゃん。それからは、どうでもいい話になったけど、どうにも気になった。腰につけたさるぼぼの人形をはずす。顔のないさるぼぼが何か言いたげにオレを見つめていた。[シーン3:祭の夜/アカナの夢】◾️SE:夢の中のイメージ祭りが終わったその晩。不思議な夢を見た。淡いピンクの霧がただよう世界。その中にぼんやり人影が浮かぶ。赤い顔をした・・・さるぼぼ・・・?「久しぶりだね、アカナ」「え?」「わかんない?」「ええっ?」「そっか、...
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  • ボイスドラマ「美織華」
    2025/05/05
    『美織華(ヴィオリカ)』は、飛騨一之宮の「どぶろく」と、遥か遠いモルドバの「ヴィオリカワイン」をつなぐ、ひとりの女性・美織の小さな旅路を描いた物語です。生まれ育った飛騨高山、そして血の中に流れる異国のルーツ。伝統の酒造りと、家族への想い。ふたつの文化、ふたつの絆が、香り高くひとつに重なっていきます。この物語は、飛騨高山から世界へ発信する番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ各種Podcastプラットフォームで配信中です。また、「小説家になろう」サイトでも読むことができます。ぜひ、耳で、心で、美織とともに香り立つ旅をお楽しみください。(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:中部国際空港セントレアの到着ゲート〜名鉄電車のホームへ】◾️SE:飛行機の着陸音/中部国際空港セントレアのガヤ◾️SE:スマホの着信音「もしもし・・・あ、お父さん」「うん、いま着いたとこ。セントレア」「大丈夫。フランクフルトからセントレア直行便があったから」「モルドバから名古屋まで15時間よ」「あ〜、早くどぶろく飲みたぁい!」私は急いで、特急列車のホームへ向かう。名古屋駅から高山本線に乗り継いで・・・午前中に着いても、結局高山駅には夕方になっちゃう。私の名前は、美織。「美しさ」を「織りなす」・・と書く。名前負け?してないわよ。特急列車ミュースカイが発車するまで、父と私は話し続けた。「ママ?うん・・・すごくキレイだった」私がモルドバに行ったのは、ママのお葬式。話せば長いけど、私を産んだママは、モルドバの女性。私が生まれたとき、父は一之宮町の氏子。ママはモルドバからの留学生だった。父は無口な人だから多くを語らないけど、残っていた写真とか、ママからの手紙とか見ると2人はかなりラブラブだったみたい。でも、私が物心つく前にママはモルドバに帰った。そのときのモルドバは、親ロシア派大統領の就任で政情が不安定。両親を心配したママは、私と父を残して帰国してしまった。”ママが亡くなった”って連絡を、ママのママ・・つまりおばあちゃんからもらったとき。父は顔色を変えずに、「ママを、見送ってこい」と私を送り出した。結局ママが帰ってから20年以上経って、私はモルドバへ。初めて会うおばあちゃんは、私を見るなり、抱きしめて大泣きした。「Miori」「Miori」と私の名前を繰り返す。そのあとは何を言っているのかわからない。飛行機の中、ガイドブックで少しは勉強したけど、ルーマニア語なんて意味不明だもん。翻訳アプリもあまり当てになんないけど、どうやら「会いたかった」「愛してる」って言ってたみたい。イエ、という質素な民族衣装を着て、何度も何度も抱きしめる。そのあとも時間はそんなになかったけど、少しだけお話ができた。もちろん、翻訳アプリを使って。おばあちゃんの名前は”Viorica”(ヴィオリカ)あれ?それって、ワインの名前じゃなかったっけ?香り高い白ブドウの品種。飲んだことないけど。アカシアやジャスミンのような白い花の香り・・グレープフルーツのフレーバー・・バラの花を彷彿とする風味・・ピーチのような味わい・・なんでそんなによく知ってるかって?だって私、ワインのソムリエを目指してるんだ。”Viorica”。あら、そうなんだ。モルドバではお酒だけじゃなくて、女の子の名前にもするのね。可愛らしい女の子につけるんですって。不謹慎だけど、口元がゆるむ。タイムスリップして見てみたいな。幼いおばあちゃんの、澄んだブラウンの瞳。”Viorica”。瞳を見つめながら名前の響きを反芻してたらなんだか、不思議な気分になってくる。なんだろう、この感覚・・・おばあちゃん・・[シーン2:名鉄名古屋駅】◾️SE:名鉄名古屋駅のガヤおばあちゃんの余韻が、そよ風のように頭の中に流れる。じっくり堪能することもなく、ミュースカイはあっという間に名古屋へ着いてしまった。ホームを出て階段を上り、高山本線の改札へ。話は外(そ)れるけど。私の住む一之宮町といえば「どぶろく特区」。飛騨一宮水無神社の氏子総代がどぶろくを醸造する。春分の日に仕込み、...
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    17 分
  • ボイスドラマ「湯上がり美人の郷」
    2025/04/23
    東京の喧騒を離れ、ひとり旅に出た女性がたどり着いたのは、深い山あいに湧き出る奥飛騨温泉郷。その静寂と湯けむりの中で出会った、ひとりの若き女将との偶然の邂逅(かいこう)――『湯上がり美人の郷(さと)』は、都会で傷ついた心が、温泉と人のぬくもりに癒されていく過程を描いた、心洗われるラブストーリーです。高山市奥飛騨温泉郷・上宝地区の新穂高温泉を舞台に、地元の文化や食、そして“はんたいたまご”のようにじんわりと心に沁みる出会いを、繊細な描写とともにお楽しみください。この物語は、「ヒダテン!Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Apple Podcastなど各種配信サービスでお聴きいただけます。また、「小説家になろう」でもテキスト版をご覧いただけます。<『湯上がり美人の郷(さと)』>【ペルソナ】・主人公:シズル(28歳)=東京のグラフィックデザイナー。失恋してふらりと旅に出た(CV:日比野正裕)・若女将:ミオリ(24歳)=新穂高温泉の老舗旅館の娘。つい最近母を亡くして若女将に(CV:小椋美織)【資料/新穂高温泉「新穂高の湯」】https://www.okuhida.or.jp/archives/2204【資料/濃飛バス「バスタ新宿→平湯温泉」】https://www.nouhibus.co.jp/highwaybus/shinjuku/[シーン1:東京・新宿のカフェ】◾️SE:カフェの雑踏「さよなら」「え?」「今までありがとう」「どういうこと?」「じゃあね」別れは突然やってきた。初夏の足音が聞こえ始める頃。新宿のカフェ。2年間付き合ってた彼女は、最後通告をするなり店を出ていった。追いかけることもできずに、頭の中は茫然自失。自動ドアが静かに閉まり、朝の空気がすうっと入り込んでくる。思えば、2年間彼女を待たせ続けていた。なのに、口から出るのは思っているのとは反対の言葉。「将来のこと?そんな未来のこと、考えたこともないよ」本当は迷っていた。自分の仕事で生活をしていけるのか 。でも、彼女にはいつも軽口を叩いていた。私の名前はシズル。池袋のデザイン事務所で働くグラフィックデザイナー。彼女は出版社の編集だった。だった・・?ああ、もう脳内では彼女との関係が“過去形”になっている。他人(ひと)からはよく、”優しい方ですね”なんて言われるけど、それって、褒め言葉じゃないよな。今なら、よくわかる。心の中はひどい天邪鬼だし。彼女なんて、私のこと「ジャック」なんて呼んでからかってた。これから、どうしよう・・・まさか、デートの日、会ったばかりでフラれるなんて、考えてもいなかったから。そういえば、デートの行き先、最近はいつも彼女が考えてたっけ。これか。こういうのが、たまってたんだなあ・・だめだ、負のスパイラルに迷い込んでしまっている。落ち着いて、まず、身の回りのものを見てみよう。いま、持っているのは・・・スマホと・・スマートウォッチと・・ノートパソコン。と、あんまり中身の入っていない・・財布。これで、なにができる?どこへいける?どこへ・・・?冷めたカフェラテをすすりながら、ふと顔をあげると、視線の端に巨大ビジョンのサイネージ。『湯上がり美人の郷(さと)』いいコピーだな。どこだろう・・・奥飛騨温泉郷(きょう)?それって、どこだっけ?高山?岐阜県高山市・・・今日中に着けるのかな・・スマホでサクっと調べてみる。あ、新宿から高速バスが・・・出発は?11時5分。間に合うな・・・[シーン2:平湯温泉バスターミナル】◾️SE:バスターミナルの雑踏「さむっ」奥飛騨って・・標高高いんだな。にしても、平湯温泉まで片道5時間か。距離にして300キロ弱。道中、長かった・・・だって、彼女のこと考えて、全然寝れなかったから。まあ、いいや。時間はたっぷりあったから、どこへ行くかも決めておいたし。奥飛騨温泉郷(きょう)・・じゃなくて、奥飛騨温泉郷(ごう)の新穂高温泉。乗合バスで30分か。ちょうどいい距離感だな。目的は、立ち寄り湯。ポスターのビジュアルがその『新穂高の湯』という温泉だった。露天の岩風呂。ゆったりと湯浴みをする女性の後ろ姿。後ろ姿なのに、湯けむりの向こうで微笑んでいるのが伝...
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    21 分
  • ボイスドラマ「朝日の中で微笑んで」
    2025/04/13
    東京での仕事と子育ての狭間で、限界を感じたひとりの母。偶然手にした一枚の手紙と、一枚の写真に導かれ、彼女は娘とともに飛騨高山・朝日町へと旅立ちます。たどり着いたのは、枝垂れ桜の咲く静かな山里。心と身体をすり減らした都会の日々とは真逆の、ゆるやかであたたかな暮らし。そして、声を出すことができなかった幼い娘が、初めて言葉を発したそのとき——彼女の人生は、もう一度、優しく動き始めます。本作は、飛騨高山を舞台にした地域発信プロジェクト『ヒダテン!Hit’s Me Up!』のボイスドラマ/小説シリーズの一編として、母娘の再生と、薬膳という知恵の物語をお届けします。ヒダテン!朝日よもぎの誕生物語です!(CV:蓬坂えりか)【ストーリー】<『朝日の中で微笑んで』>【ペルソナ】・母:かえで(28歳)=東京の広告会社で働くマーケティングディレクター。子育て中・娘:よもぎ(2歳)=2023年生まれ。生まれつき病弱でアレルギー体質。言葉を話せない【資料/高山市朝日町】https://www.hidaasahi.jp/<よもぎのモノローグとセリフで進行>[シーン1:「大廣古池前」バス停留所】◾️SE:夕暮れのイメージ(巣へ帰る鳥の群れ)どうしてこんなとこまで来てしまったんだろう・・・寒い。幼い娘は私の左足にぎゅっと抱きつく。そっか。私たち、普段着だ。私は薄手のニットにスキニーデニム。ジャケットも春用だから冷たい空気を遮断できない。いわゆるバリキャリスタイル。マザーズリュックだけ浮いてるわ。娘も薄着のまま連れ出しちゃった。ピンクのニット帽に小さなワンピース。子供用リュックが震えている。かわいそうなこと、したな。また母親失格・・ってか。私は、渋谷の広告会社で働くマーケター。得意分野はSNSマーケティングとインフルエンサーマーケティング。Z世代に向けた企画を毎日考えている。ま、私もギリ、Zなんだけどね。で、同時に子育て中。仕事と子育ての両立。・・・って、言うほど簡単じゃない。時間と段取りとストレスと睡眠不足に押しつぶされそうになって、いまココ。午前中、会社を無断欠勤して、新幹線に飛び乗った。小さな封筒をポッケに入れて。それは、大学時代の友達からの手紙。8年前。友達は大学を辞めて実家へ戻っていった。理由は、詳しく聞けなかった。しばらく音沙汰なかったけど昨日、8年ぶりに手紙をもらったんだ。でもなんで、手紙?メールとかでいいじゃない。あ、だめだ。プライベートのメールなんて、全然開いてもないわ。それに、手紙じゃなかったら、私ここに来てないもの。封筒の中には小さなメモ紙が1枚。綺麗な殴り書きで「いいところだから。遊びにこない?」メモは、プリントアウトした写真にクリップ止めしてある。ライトアップされた夜桜の写真。枝垂れ桜かしら。それが手前の水面(みなも)に映って、ゾクっとするほど神秘的。写真の裏に住所が書いてあったからふらっと来てしまった。高山市朝日町浅井。まさか東京からこんなに遠いなんて。寒そうにしてる娘に、私のジャケットをかけて抱っこする。う〜、さむっ。娘は今年で3歳。でもまだ言葉を喋れない。お医者さんは、多分精神的なものだろうって。脳の発達にも異常は見られないから心配しないように。あせらないこと。・・・って言われてもねえ。しかも、アレルギー疾患もあるし、よくお熱も出すし、心配がいっぱい。母としていつも一緒にいてあげなきゃいけないのに。ああ、マーケターって仕事のせい?いや違う、やっぱり自分のせいだ。今日もまた脳内で負のループが回り始める。こんな私なのに、傍目だと、呑気な親子旅行に見えるのかなあ。◾️SE:バスが発車していく午後5時45分。バスは定刻通りに「大廣古池前」に到着した。暮れなずむ時間帯。それでも、客は私たちだけじゃない。女子大生のグループかしら。それも1組だけじゃない。へえ〜、つまりこの桜、彼女たちをつき動かすほどの”映えスポット”ってことね。ネットで調べてわかったんだけど、朝日町って、別名「枝垂れ桜の郷」って言われてるんだ。町のあちこちに枝垂れ桜。淡いピンクに包まれる農村の町...
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  • ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」
    2025/04/04
    昭和34年――岐阜県・荘川村は、御母衣(みぼろ)ダムの建設により、湖の底へと沈む運命にありました。その村の一隅、光輪寺に佇む一本の老木「荘川桜(しょうかわざくら)」は、400年の命を生き、村を見守り続けてきた存在でした。本作『櫻守が見た夢 〜儚い春の風〜』は、史実として語り継がれる荘川桜の奇跡の移植を背景に、桜の精「さくら」と、ダム開発の責任者「リョウ」との、時を超えた恋を描いた幻想譚です。出演は声優・岩波あこ。ボイスドラマとして、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど、各種プラットフォームで配信中です。さらに、「小説家になろう」サイトでも物語をお楽しみいただけます。桜の花が風に舞うように、儚くも優しい記憶。あなたの心にも、ほんのひとひら、届きますように(CV:岩波あこ)【ストーリー】[シーン1:1959年11月後半/光輪寺】<さくらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:吹雪の音「もうすぐお別れね。400年っていう歳月は、長いようで、実はあっという間だったわ」誰に聴かせるでもなく、静かに囁いた声は、雪に吸い込まれるように消えていく。早雪(そうせつ)。11月に降る雪をこう呼ぶ人もいる。はるか昔より、私はこの桜とともに、ここで暮らしてきた。私は・・・そうだな。櫻守(さくらもり)、とでも言っておこうか。ここは、荘川村の光輪寺(こうりんじ)。寒風の中、江戸彼岸桜の老木は、眠るようにたたずんでいる。老いてなお、春になると見事な花を咲かせるはずだった。だが、それも来年で見納め。いや、工事が早く進めば、春を待たずに、その命は絶たれることになる。この村は、ダムの底に沈むのだ。私は感謝の思いを胸に秘め、目を閉じた。雪混じりの風が頬をかすめる。冷たいはずのその感触が、どこか懐かしくて、優しいものに思えた。1959年、私には最後の冬。頬にあたった雪がゆっくり溶けていく。まるで、桜色の涙を流しているようだった。◾️SE:吹雪の音〜雪の中を歩く足音どのくらい時間が経ったのか、よく覚えていない。どこからか小さな視線を感じていた。いつの間にか風は凪ぎ、しんしんと雪が降る。静寂の中、微かな息遣いが伝わってきた。振り向けば、スーツの上にネイビーの作業用ジャンパーを羽織った男性。足元に積もった雪が、彼の迷いを映すように揺れている。彼の顔は・・・知っている。ダム開発の責任者だ。名前は・・たしか・・リョウ。そうか、確か今日、建設反対派の解散式だったんだな。開発側の人間にしては、嬉しそうな顔には見えないが。リョウは、私と視線が合うと、雪を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。私の方を見て、目を見開きながら、”どうして、今まで気づかなかったんだろう”と、つぶやいた。なにを言ってるのかしら。私、雪の日も、雨の日も、いつだってここにいたじゃない。体に降り積もる雪をはらおうともせず、彼は、私と老いた桜をずうっと見つめていた。[シーン2:1960年2月/光輪寺】私とリョウの逢瀬は、それから毎日のように続いた。といっても、一方的に彼が逢いにくるのだけれど。ま、私、出不精だからしょうがないわね。遅い春が、小さな温もりを運んできても、彼は私の元へやってきた。”君を、守りたい”が、彼の口癖だ。直接的な、愛の言葉。何度言われても、醒めることはない。愛おしそうに私を抱きしめるリョウ。ああ、いつまでもこうしていたいけど。彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、ため息をつく。そんな、悲しい顔をしないで。いま、この瞬間(とき)を大切にして。私たちは時間の許す限り、逢瀬を重ねていった。[シーン3:1960年4月/光輪寺】新しい年を迎え、住民はひとり、ふたりと村を出ていく。町では桜が落下盛んとなり、眩しい新緑に生まれ変わる頃。私にとって、一年でもっとも輝く季節がやってきた。樹齢400年を越える巨木が、見事な花を咲かせる。人々が太い幹の下に集まり、杯を酌み交わす。去年より人の数は多い。心なしか、今年はみんな、ときどき寂しそうな表情をする。やだなあ。花の命は短いのよ。...
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    12 分
  • ボイスドラマ「星のりんご」
    2025/03/31
    飛騨高山の小さな町、久々野。澄んだ空気と澄んだ水に育まれた、まるで星が宿ったような甘い果実——飛騨りんご。でも、この物語の主人公「りんご」は、名前に反してリンゴが大の苦手。香りさえも拒絶するほどのトラウマを抱えていた彼女が、ある“きっかけ”を通して、心の奥に眠る小さな記憶と向き合い、新しい自分を見つけていく。これは、ちょっと苦くて、でもとびきり甘い。まるで飛騨りんごのような、ひとりの女の子の小さな再生の物語。Podcast番組「ヒダテン!Hit’s Me Up!」をはじめ、各種配信プラットフォームや「小説家になろう」で楽しめるこの物語。あの頃の自分に、そっと寄り添いたくなるような——そんな“ひとくち”を、あなたに(CV:坂田月菜)【ストーリー】<『星のりんご』>【資料/久々野の飛騨りんご】https://www.kankou-gifu.jp/gourmet/detail_6365.html#:~:text=高山のりんごは酸味,りんごを生み出しています。[シーン1:12月頃/自宅のダイニングで/回想シーンあり】<りんごのモノローグとセリフで進行>「あ〜っ!!またリンゴ!もう〜ママ!何度も言ってるのに!アタシ、リンゴなんて嫌いだって!」ママが悲しそうな顔で笑う。しょうがないわねえ、と言いながら、クリアボウルに入ったリンゴを冷蔵庫に片付ける。アタシの名前はりんご。そう、自分の名前にもなっているのに、リンゴが嫌い。それも嫌いな理由かも。だって昔からリンゴが嫌いなんだもん。昔から・・・?昔、っていつ?アタシ、いつからリンゴが嫌いになったんだろう・・・幼稚園のとき、ママが作ったアップルパイ。一口食べたら、「においがピリピリする!」と言って吐き出してしまった。ママは、しょうがないわねえ、と言って自分で食べる。あ、そっか。ママの分はなかったんだ。今ならなんとなくわかる。シナモンの甘いけどスパイシーな香り。幼いアタシにとっては、お薬みたいに感じたんだっけ。あとからママが言ってた。飛騨リンゴは、ほかのリンゴより酸味が少なくて甘いのに。久々野は昼夜の気温差がおよそ10℃。この寒暖差で成熟したリンゴは、蜜が多くて、糖度が高いんだって。あれ?じゃあアタシ、どうしてリンゴが嫌いなの?小学校に入った年。学校の給食で、デザートに飛騨リンゴがでたとき。周りのお友達はみんな美味しそうに食べてた。私は・・・幼稚園のときのトラウマで食べられなかった。シナモンの香りが脳内にグルグルまわっちゃったから。でも・・・給食のリンゴには、シナモンなんて入ってなかったはず。確か10月の収穫時期だったから・・・旬のど真ん中だったのに。なんか、それだけじゃなかったような・・・あ、思い出した。グリム童話だ。「白雪姫」。私、小学校3年生までに、全210話の全集を読破したんだ。ってか、ママが読み聞かせ、してくれたんだけど。アタシが一番好きなお話は「赤ずきん」だったのにママが好きなのは「白雪姫」。何度も何度も読み聞かせてくれた。BGMに「いつか王子さまが」を流しながら。クスッ(笑)それで。 頭の中に刷り込まれちゃったワードが「毒リンゴ」。あ〜あ、ダメじゃん。だからアタシ、リンゴを食べたら、永遠に眠っちゃうって思い込んでた。王子さまにキスしてもらえば、目が覚めるのにね。だめだめだめだめ。なに考えてんの。ママに聞かれたら大変。ま、そんなこんなで、りんごの香りを嗅ぐだけで拒否反応が出るようになった。生のりんごはもちろん、りんごジュース、アップルパイ、ぜんぶダメ。久々野が誇る飛騨リンゴなのに。小学校を卒業するまで、給食の時間が憂鬱だった。そりゃそうでしょ。「りんごのまち」久々野だもん。給食にリンゴが出てくる頻度、高かったわー。中学校に入ると、最初の行事は文化祭。憧れの文化祭。アニメとかでは知ってたけど、参加するのは初めて。だけど、ここにもリンゴが降臨した。クラスのだしものは模擬店。テーマは「久々野の恵み」。地元の食材を使ったスイーツやドリンクを提供するって。嫌〜な予感。「飛騨りんごジュースを売ろう!」「アップルパイも作ったら?」くると思った。実家が果樹園って友だち、多...
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