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サマリー
あらすじ・解説
映画『ブレードランナー』やフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』にオマージュを捧げた物語。高山の総合病院で働く看護師の“私”が、自らの記憶に違和感を覚えた瞬間から物語は動き始めます。日常に潜む違和感、そして自分が何者なのかを問い直すサスペンス。最先端のAIが医療を支える時代、感情の有無が人間らしさを決める世界で、“私”の存在の意味とは?この物語は、Podcast番組「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種プラットフォームでお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<『私はだぁれ?』>【資料/「ブレードランナー」ワーナーブラザーズ】https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=5■SE/病院の検査室の音「ピッピッピッ」『あなたは誕生日プレゼントに牛革(ぎゅうがわ)の財布をもらいました』『シーフードレストランでエビを注文したら、シェフは目の前で熱湯の中に生きたエビを放り込みました』『昔の映画の1シーンですが、パーティのメインディッシュは犬の肉でした』■SE/病院の検査室の音「ピッピッピッ」『あの・・・教えてください。どうして毎月、こんな検査をするのですか?』『看護師の君だけじゃないんだよ。うちは総合病院だからね。職員のストレスチェックは必須なんだ。だから職員全員にこのチューリングテストを受けてもらっている』事務局長は、機械的な、抑揚のない声で答える。私は今年で10年目を迎える中堅看護師。高山市内の大きな総合病院で働いている。『以上です。お疲れ様でした』「おつかれさまでした」疲れた感満載の声で答える。仕事にもだいぶん慣れたはずなのに、毎月一度のこの検査だけは好きになれない。それでなくても、気がつけば仕事に追われる毎日。ストレスなんて半端ない。唯一の救いは、私のことを誰より理解してくれる彼。週に1度、彼と過ごすひとときだけが、私の精神を正常に保ってくれている。最近は医療の世界にも最先端のAIが入り込み、患者一人一人のバイタルを管理。看護師や薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーたちをひもづけている。それなのに、この忙しさ・・・以前と比べて圧倒的に増えた病人の数と、医療・福祉業界の構造的な問題かしら。どうでもいいけど、疲れた・・・夜勤明けの朝9時、私はぼーっとした頭で帰途につく。宮川の朝市では、おばちゃんが赤かぶを売っている。『今日も夜勤かい。おつかれさま。1個持って持っていきないよ』お礼を言って、色鮮やかな赤かぶを手にする。あれ?でも、いつものおばちゃんじゃないな。初めて見る顔。スマートウォッチに、刑務所から6人の死刑囚が脱獄したニュースが流れている。彼とやりとりするチャットも今日はお休みしよう。早くベッドに入って眠りたい。■SE/朝の小鳥ふぁぁ・・・よく寝たわ。っていうか、夜勤明けってベッドで1日終わっちゃうんだよなあ。スマートウォッチには彼からのチャットが表示されている。あれ?だれ?これ?こんな名前の人、知らない。やだ、ブロックしないと・・・え?『夜勤おつかれさま。昨夜はよく眠れた?』なんで私の仕事をしってるの?でもこんな人知らない・・・名前も、IDに映る顔写真もまったく面識ない人だ・・・彼は?彼からは連絡ないの?私は、スクロールしながら彼とのトークルームを探す。ちょっと待った。え〜っと、彼の名前・・・なんだっけ?顔は?やばいやばいやばい。ちょっと私、どうしちゃったの?私は焦りながら、カメラロールから彼を探す。えっ!?え〜っ!?カメラロールにある彼とのアルバムには、見知らぬ男・・・さっきLINEに送ってきた男の写真がズラリと並ぶ。しかも、何枚かは私が一緒に写ってる。行ったこともない場所で、食べたこともない料理を前に。これ、どういうこと!?いたずら好きな彼のしわざ?いや、そんなこと・・・できるわけない。彼に電話を・・・だめだ、履歴に残るのも知らない名前ばかりだ。そうだ、ママ!ママに電話して・・・やだ、ママの名前がどこにもない!私は思わず、アパートを飛び出す。...