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サマリー
あらすじ・解説
今回のゲストは、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子(しぶや・ともこ)さん。 澁谷さんが「ヤングケアラー」という言葉に出会ったのは2005年の学会。自身が子育てと仕事の両立で悩んでいた時に、学校と母親のケアをどうにか両立させたいとしている10代の子どもの手記を読んで、「胸を打たれた」と澁谷さん。 「私は大人なので保育園の情報とかを自分で探すこともできたが、ヤングケアラーは情報をどこで得ればいいかもわからない。周りの子とちょっと違う状況になっているんだけれども、誰に相談すればいいかもわからない。まず彼らのことがしっかり伝わるように書いてみたいと思った」と振り返る。 「ヤングケアラーが今、これだけ注目されているのはなぜ?」という問いに対し、澁谷さんはデータなども示して解説してくれた。 「子どもの頃、『おしん』というドラマを見たが、おしんの時代は子どもが働いたり子守りをしたり、もっと言うと児童労働していることも普通にあった。でも、その後、日本が高度経済成長で豊かになっていくと、家族の中での分業が進むーー」。 「お父さんがメインで働いて、お母さんが家のこと、子どものこと、あるいは地域のことを受け持つ。子どもは自分のために時間を使えて、勉強とかいろいろな体験を広げることが望ましい、という考え方が広がる。そうした形が「標準的」な家族の姿として共有されていく」。 「そこでは子どもが介護を担ったり、子どもがきょうだいの世話をしたりするのが、以前のように共有されなくなった。子どもが介護やきょうだいの世話をすることが驚かれる時代になって、話をしても『それは大変だね』と言われるだけで、話す機会、聞いてもらう機会がなくなっていった」。 そして4枚のスライドで、澁谷さんは、子どもが家の中の仕事を受け持たざるを得なくなった状況を詳しく説明した。 澁谷さんは昨年、こども家庭庁が行ったヤングケアラー支援の効果的取り組みに関する調査事業に携わった。 「ヤングケアラーとその家族が利用してよかったサービスについて聞いたところ、“話を聞いてもらったことが精神的な面で大きかった”という答えが中高生に多かった」と澁谷さん。 「小学生くらいの子どもだと、お母さんがどうしたら楽になるかということを考えているので、“家事”といった答えが多かったが、中高生くらいになると、“母親の話を聞いてくれる”あるいは“子どもである自分の話を聞いてもらうことによって、親が『子どもが相談できている相手がいる』と思うことで安心する”、“自分自身の進学や進路を、こんなふうに考えたらどうかとか、学校に行くのは無理と思っていたがこういう方法がある、といった相談ができた”という答えが多かった」と言う。 一方で、支援に繋がったことによって、ありがたいと思う半面、「ヤングケアラー」という言葉を聞くのはすごくつらいという親の声もあったという。 澁谷さんは「子どもにケアをしてもらっているところはあるかもしれないけれど、親として子どもの話を聞いたり、子どもが望むことをしてあげたいという気持ちを持っていたりする部分もある。それが完全に『ケアを受ける側』とされてしまうのは、納得がいかないところがあるかもしれないと思う」と語る。 「子どもが親を思って、親が子どもを思ってきた家族のこれまできたあり方を、大事にしたいと思っているヤングケアラーやその親の関係が、大事にされるようなサポートのあり方があるといいなと思う」。 ヤングケアラーが取り上げられると、マスメディアではすぐに「支援をどうする」という話になることが多いが、澁谷さんは「支援と言われると『いや、大丈夫ですから』みたいな答えになってしまう。『もう少し時間あったらどうしたいの?』といったふうに、何気なく聞いてくれたときに初めて、子どもたちは『自分は何したいんだろう』みたいなことを考えるきっかけができたりする。日常的なやり取りの中で自分をほぐしていくとか整理...