エピソード

  • ボイスドラマ「飛騨もも〜ハッピーアグリーデー!」
    2025/02/23
    飛騨国府の豊かな自然と、そこに根付く人々の温かさを描いた物語、『ハッピーアグリーデイ!』へようこそ。高山市を舞台にした物語は、「小説家になろう」 サイトや各種Podcastプラットフォームでお聴きいただけます。飛騨ももと老夫婦の出会いから始まる、小さな奇跡の物語。農業体験を通じて生まれる絆、収穫の喜び、そして未来への希望。国府の飛騨ももが結んだ縁が、どのように人々の人生を変えていくのでしょう・・・(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<『ハッピーアグリーデイ!』>【資料/国府の飛騨もも】https://hidakokufu.jp/enjoy_taste_heal/227/[シーン1:7月末/収穫の始まり】<飛騨もものモノローグ>むかしむかし。飛騨の国府(こくふ)という町に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに・・じゃなくて、自分の果樹園に桃の収穫に出かけました。ではおばあさんは?川へ洗濯へ・・行きたかったのですが、腰を痛めたおじいさんと一緒に果樹園へ出かけていったのです・・■SE/ニイニイゼミの鳴き声(初夏のセミ)<おばあさん>『今年はほんとにあっついなあ、おじいさん。まだ7月やっていうのに』おじいさんは目で返事をします。あたり一面に漂う、うっすらと甘い香り。2人は籠を片手に、丁寧に桃を摘み取っていきます。低いところに実った桃はおばあさん、高いところに実った桃を獲るのはおじいさんの役目ですが・・獲ったあと痛くて腰をかがめないので、大変そう。『おじいさん、すごい汗やな。大丈夫か』大丈夫じゃなかった。熱中症。そりゃこの暑さだもの。仕方ないけど。力の抜けたおじいさんをおばあさん1人で家まで連れていくのは大変でした。家に着いて、おじいさんを寝かせ、ひと息ついたところで、おばあさんもぐったり。『残りの収穫はもう明日以降でいいやな。熟してまってもしょうがない。わしまで倒れたらどもならん』しばらく休んだあと、よっこらしょ、と立ち上がり、お勝手へ。一服しようと、お茶を沸かしているときでした。『こんにちは』『ん?誰かいな』『あの・・夏休みで高山へ遊びにきた大学生です』『ほうほう』『もも、と申します』『もも!?そりゃそりゃ、めんこい名前やわ』『こちらの農園の方ですか?』『ああ。うちには、わしとおじいさんと、2人しかおらんで』『ほかには?お子さんとかいないんですか?」『おらん。息子は30年前、高校生のとき家を飛び出して東京へ行ったわ。それきり音沙汰もない。よっぽど、畑仕事が嫌やったんやろなあ』「そうなの・・・実は、飛騨ももの収穫体験をさせていただこうとお邪魔したのですが』『収穫体験?桃の?』『はい、グリーンツーリズムで』『なんやて?グリーン・・・』『グリーンツーリズムです。農業体験をしながら農家へ泊まらせていただくこと』『そんなもんがあるんかい?そりゃしらなんだ』『でも、やってるとこ、どこもいっぱいなんですって」それであのう・・・申し訳ありませんが・・・よければ、収穫のお手伝いをしながらこちらに泊めていただけませんか?』『なに?うちに?』『あ、いきなりごめんなさい。もちろん、宿泊代はお支払いします』『いやいや、お金なんていらんやさ。それよりこんな汚いとこに泊まらんでも』『きれいじゃないですか、埃ひとつない』『布団も煎餅布団しかないし』『そんなの関係ありません。飛騨ももの収穫を手伝わせてください!』『いやあ、ちょうどおじいさんが熱中症で倒れてしまってな。しばらく作業を休もうかと思ってたんや』『そんな。桃が熟しちゃう』『そうやな』『私じゃ全然お役に立てないけど、これも何かの縁だと思いませんか』『う〜ん・・』『私、こう見えても、立ち仕事には慣れてるんです』『でもなあ・・』『ヘバったり、泣き言言ったりしません』『そうか・・』『お願いします』[シーン2:8月/真夏の収穫】<飛騨もものモノローグ>こうして、ももはおばあちゃんの農園で一緒に収穫をするようになりました。セミの声もニイニイゼミからクマゼミへ。真夏の太陽が桃畑に降り注ぎ、収穫も最盛期を迎えます。■SE/クマゼミ...
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  • ボイスドラマ「さるぼぼ〜魂を導くもの」
    2025/02/14
    『さるぼぼ〜魂を導くもの』は、飛騨地方に古くから伝わる「さるぼぼ」にまつわる不思議な縁を描いた物語です。「さるぼぼ」は、子どもや家族の幸せを願い、大切な人を守るお守りとして親しまれてきました。本作は、Podcast番組 「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種プラットフォームでもお聴きいただけます。飛騨の風景とともに、さるぼぼが導く奇跡の物語を、ぜひ耳でもお楽しみください(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<シーン1/古い町並にて>■SE/古い街角の雑踏「ママ」 え? 小さな声に振り向くと、軒先のさるぼぼと目が合った。雑貨屋に置かれた手のひらサイズの人形。赤い色が微笑んだように見えた。 私は、東京からふるさとへ戻ったばかり。先ほど、不動産屋さんで住居を探してきたところだ。まあ、よくある話。慣れない東京で人間関係に疲れ、逃げるように高山へ帰ってきたってわけ。ホントは、奥飛騨に空き家を借りて隠遁生活を送ろうと思ってたのに。それを不動産屋さんに伝えると、露骨に顔を顰めた。 ”冬山で1人で空き家に?””携帯の基地局も離れているからつながらないし””第一、女性が1人暮らしするところじゃない” 結局あきらめて店を出た。ひさしぶりに散策する高山市内。そのとき、この小さな赤い顔に出会ったんだ。 さるぼぼをとろうと伸ばした手の先が何かに触れる。 「あ、ごめんなさい」 それは、誰かの右手。私よりひとまわりくらい年上の男の人だった。年齢の割に幼い表情。はにかんだ笑顔はきっと好感度も高いんだろう。 お互いに顔を見合わせる。まるでドラマのような出会い。笑える。 <シーン2/宮川の朝市にて> ■SE/朝市の喧騒と宮川のせせらぎ そのあとの展開はまさにドラマ。映画のストーリーのように私たちの心はつながり、お互いに支え合うパートナーとなった。私は看護師となり地元のクリニックに勤務。彼は観光客向けにカフェを始めた。 2人で過ごす新しい人生。今日も肩を寄せ合って宮川の朝市を歩く。こうやって、一緒に年老いていくのかな。思わず口角が上がる。ただ・・・何も言わないけど、私たちの間に子どもができないこと。たぶん彼は気にしている。子ども好きな彼のことだから、家族がほしいのだろうな。私だって本当はそうなりたいのに・・・ 「ママ」 え? また?あの声。 私は周りを見渡す。もちろんどこにも子どもの姿はない。彼には聞こえていないようだ。 まあ、いいか。悪いことがおこるわけじゃないし。いまのひょっとして君かな? バッグの中から顔を出しているさるぼぼに目で訴えた。 ところが・・・ 翌日、私の懐妊が判明した。彼は、高山の遅い春が通り過ぎちゃったくらい喜ぶ。そこから先は、まあ、早かった。 新しい年が明けて、産声をあげたのは私にそっくりな娘。この娘はさるぼぼが連れてきてくれたのかな。 私たちは、文字通り目に入れても痛くないくらい娘を愛した。 娘が3歳になると、週末はできる限り、家族でドライブに出かけるようになった。真新しいチャイルドシートを後部座席にとりつけて。もしもの時も大丈夫。チャイルドシートは最も高機能のものを選んだから。 幼稚園の卒業。小学校の入学。 節目節目がもう嬉しくて、嬉しくて。この幸せは、永遠に続くものだと思っていた。あの日までは・・・ <シーン3/渋滞の車列> ■SE/救急車のサイレンの音 暖冬には珍しく大雪が降った週末。私たちは危ないからお出かけをやめようと言ったが、娘がどうしても行きたいとせがんだ。 仕方なく出かけたドライブ。彼はつとめて慎重に雪道を運転していた。だが、楽しく過ごした温泉からの帰り道。渋滞する車の列に、大型トレーラーが突っ込んだ。 目が覚めたときは病院のベッドの上。枕元で、ギプスをはめ、悲痛な顔をした彼が目を真っ赤にして泣いている。 あの娘は?どこ?怪我は?早く会わせて!え?なに?うそ!?そんなのうそ!うそでしょ!いやだ!信じない!聞こえない! 私たちでさえ一週間以上意識不明の重傷。後部座席の娘が無事なはずはなかった。 彼は私...
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  • ボイスドラマ「アイドル」
    2025/02/14
    『アイドル』は、高山市を舞台にした青春ドラマであり、音楽と夢、そして「本当の自分」をテーマにした物語です。アイドル活動と学園生活——まったく別の世界を生きる少女・栄美(エイミ)が、ある日、思いがけず「真実」と向き合うことになります。華やかなステージに立つ「EMIRI」と、学校では地味で目立たない「栄美」。彼女の二つの顔、そして彼女を取り巻く人々の想いが、音楽とともに交錯していく——。本作は、Podcast番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトやSpotify、Amazon、Appleなどでも楽しめる作品となっています。ぜひ、音楽とともに物語の世界を感じていただければと思います!(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<シーン1/ドーム公演>■J-POPイメージBGM/japanese-vocals-300539110.wav■SE/曲が終わったあとの大歓声(エミリコール「エミリ!」「エミリ!」「エミリ!」)「みんな、今日はありがとう!」45,000人の観客がペンライトを振る。アンコール最後の曲が終わっているのに、いつまでも、いつまでも。ソロアイドルの単独公演としては巨大過ぎるハコ。ステージ上だけでなく、アリーナやスタンドにまで細部にわたった演出。映像装置のせいで本来は55,000人のキャパであるドームが45,000人の収容人数となった。まさか満員御礼になるとは思ってもみなかった。ファンは予想以上に行動力がある、ということなんだ。アンコールも含めたセットリストはすでに終わっている。私はアコースティックのギターを抱えた。舞台監督がヒゲをさすりながらニヤリと笑う。彼にはリハのあと、即興で弾き語ったのを見られていた。ドラム、キーボード、ピアノ、リード&サイドギター。楽器だけが置かれたステージに、私はゆっくりと歩いていく。私の登場と同時にアンコールの拍手は止み、どよめきがおこる。やがて、割れんばかりの大歓声が私を包んでいった。■SE/大歓声と拍手BGM/faerie-hill-spring-347048818.wavBGM/seeds-in-the-sky-346427248.wav<シーン2/学校の教室/始業のチャイム>「ふぁ〜。もう5時限目かあ」アイドル・EMIRIの素顔。それは、高山市内の城山高校に通う1年生。本名・栄美(エイミ)という名前は、ファンの誰も知らない。言うつもりもないけど。だって、校則でアルバイトも課外活動も禁止なんだもん。違反したら即退学だし。アルバイトじゃなくてちゃんとした仕事なんだけどなあ。クラスの中は、昨日のEMIRIのライブの話で盛り上がっていた。私は、授業中以外は、いやたまに授業中も、机に突っ伏して寝ている。だめだめ。先生が教室に入ってくる前に起きなくちゃ。今日も今日とてゆ〜っくり顔をあげると、あ。まただ。机に置いた教科書がなくなっている。きっといつもの女子グループによるイジメだ。教室の隅から、”トイレに行ったら見つかるかも〜”という声があがる。にやけた声で笑いながら。仕方ない。私は立ち上がり、トイレへ向かう。廊下を歩く私を見て、みんながクスクス笑っている。そのわけは、トイレの鏡を見て理解した。私の背中に習字の半紙がくっついている。そこには、下手くそな文字で差別的な言葉が書かれていた。はあ、よくやる。私が誰ともつるまず、女子のどのグループにも属さず、毎日独りで登下校しているのが気に食わないみたい。そう。みんなが推してる人気アイドル『EMIRI』の正体をクラスの誰も知らない。メイクもせず、三つ編みに丸メガネ。ステージのときのオーラなど微塵もないのだから当然ね。みんな、私のこと、コミュ症で陰キャなオタク女子だと思ってる。あたってるけど・・・そう。栄美はEMIRIとは別人。真逆な人間だもん。仕事やライブが入ると学校は休まないといけない。まあ、最近は、学校って簡単に休めるからラクだけど。トイレの床に落ちていた教科書を拾い、教室へ戻る。後ろの扉から入ろうとすると・・・あーあ、鍵がかかってる。仕方なく前の席から入っていくと、担任の教師と目が合った。『オマエ、何回授業に遅れたら気がすむんだ?あ〜ん?』半分笑いながら黒板を指で叩く。もう。いじめがなくならないのは、教師にも問題があるんじゃないかなあ。『バツとして今日は...
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  • ボイスドラマ「恋の炎」
    2025/02/14
    「八百屋お七」の物語をご存じでしょうか?江戸時代、恋に焦がれた少女が自ら火を放ち、悲劇の結末を迎えた――。この伝説的な物語は、時代を超えて人々の心を揺さぶり続けています。ボイスドラマ『恋の炎』は、この「八百屋お七」の物語を現代の感覚で再構築し、飛騨高山の情緒あふれる町並みに舞台を移したものです。高山の町家で生きる一人の少女。恋に燃え、運命に翻弄される彼女の想いを、どうか最後まで見届けてください。この物語は、ラジオ番組 「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】■SE/電気を消す音とベッドのシーツをかける音『もう寝る時間よ』『寝る前にお話きかせて』『いいわよ。どんなお話にする?』『八百屋お七』『なにそれ、いきなりなんなの?』『テレビで言ってた』『え〜、あなたにはまだちょっと早いかな』『なんでー?聞きたい』『う〜ん』『聞きたい聞きたい聞きたい』『もう〜しょうがないなあ』『やたっ』『いい?八百屋お七っていうのはね』『やたっ』『ものすご〜く昔のお話なの』『ふ〜ん』それは、今から300年くらい前のこと。ここ高山の町家に太郎兵衛(たろべえ)という八百屋さんがあったの。お七はこの八百屋さんの一人娘。生まれてすぐに、お七のお父さんは亡くなってしまいました。お母さんは女手一つでお七を育てなければなりません。もともと小さなお店でしたが、それでも早朝から夜まで働き働き通し。お七は、こ〜んなちっちゃい頃からお母さんの仕事を手伝います。毎日毎日ちゃんと真面目に働きました。お客さんに対しても親切で礼儀正しかったからお店の人気ものになったんだって。それに、頭もすごくよかったし、商売の才能にも恵まれていたの。お七の八百屋さんは、町家の中でも評判に。遠いところからもお客さんがたずねてくるようになりました。それだけじゃないのよ。お七は誰に対しても優しかったの。飢饉のときなんて、自分の髪を切ってそれを売りお金に替えた。そのお金で米を買って、貧しい人たちに分け与えたそうよ。当時から『髪は女の命』って言われてたのにね。お七が十七になった年。高山で大きな火事が起こったの。高山って城下町だから、お城と武家屋敷、お寺、商人の町=町家と4つの地区があるでしょ。そのなかでも、昔から火事に悩まされてきたのが町家。このときの火事は歴史に残るくらい、大きな大きな火事。お七のお店も、ほかの店も、み〜んな焼けてしまいました。火事でお店やおうちがなくなっちゃった人々はどうしたのかな。みんなお寺に泊めてもらって助けあったのね。ほら、あの窓から見えるでしょ。少し高いところにある宗猷寺(そうゆうじ)。立派なお寺だねえ。お七とお母さんも、お寺の前に仮小屋(かりごや) を建ててしばらく住んでいました。そのとき、身の回りの世話をしてくれたのが、お寺の小姓さん・左兵衛(さへえ)。左兵衛は、おにぎりやら果物やらいろんな食べ物を持ってきれくれます。毎日のように小屋の掃除や洗濯も手伝ってくれました。左兵衛と何度も言葉をかわすうちに、お七は左兵衛のことがどんどん好きになっていきました。コホン(※咳払い)えっと。ここからはちょっと大人のお話になるから・・・あれ?寝ちゃった?なんだ、よかった。でも、ここからがいい話なんだけどなあ。じゃあ、今から大人の物語をはじめましょう。『左兵衛さん、そんなにしてもらっちゃ悪いわ』『お七さん、私が好きでしていることですから』いつしか2人は、お互い惹かれ合うようになります。ただ、お寺の門前は、火事で焼け出された人々の避難場所。仲良くし過ぎているところはあまり見られないようにしないといけません。しかも左兵衛は寺のお小姓ですからなおさらです。お七と左兵衛は人目を忍んで逢引きを重ねていきました。やがて、お七の母親に大金が入り込み、新しい住まいが町家に完成します。そのため、2人は引き離されることになったのです。実は、母親に大金を渡したのは、町家の大店(...
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    13 分
  • ボイスドラマ「行人橋」
    2025/02/14
    『行人橋』は、年齢に抗いながらも声優として生きる女性の、心の変化を描いた作品です。時を重ねることは、時に恐怖や不安を伴います。とくに声の仕事をする彼女にとって、「若さ」と「実力」は切り離せない問題でした。しかし、彼女の願いが叶えられたとき、その「奇跡」は果たして幸せなものだったのでしょうか?高山市に実在する行人橋を舞台に繰り広げられるこの物語は、人生の価値とは何か、自分らしさとは何かを問いかけます。そして、最後に彼女が選んだ答えとは——。本作はPodcast番組『Hit’s Me Up!』の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお聴きいただけます。声の演技だからこそ伝わる「想い」を、ぜひ耳でも体験してください(CV:桑木栄美里)【ストーリー】■SE/オフィスのガヤ〜扉を激しく開ける音「ちょっと、マネージャー!なんなの?この役は?42歳の母親役って?」「冗談じゃない。私、まだ30代よ。39歳なのよ」「なに言ってるの!39歳と40歳じゃあ、雲泥の差よ。天と地ほど違うわ」「年相応の役はとってこれないの?」「だから勇者と恋に落ちるヒロインとか後宮の美しいお妃とかさ。20代後半から30代くらいの、セクシーな主役級キャラってあるでしょ」「ああもう〜、いいわ、直接プロデューサーに電話するから!」私はキャリア20年のベテラン声優。いやあね、ベテランっていうと老け感があるじゃない、せめて中堅と呼んでほしいわ。まだまだ主役はれるし、声の艶は20年前よりハリがあるんだから。「もしもし、あ、プロデューサー?ちょっと相談なんだけどさ」結果は変わらなかった。そう、私は39歳。しかも明日は誕生日。もうあと何時間かで、口に出すのもおぞましい40歳がやってくる。そうしたら今以上に仕事のオファーやオーディションはなくなり、先細っていく。ああ!いやよ、そんなの!若い子たちになんて絶対負けたくない!■SE/街角の雑踏〜ハイヒールの足音むしゃくしゃした気分で行神橋(ぎょうじんばし)を渡って、宮川沿いを歩く。この橋もできたてのときはヒノキのいい香りがしたんだけどな・・・あ〜だめだめ。すぐに年齢のことに結びつけちゃう。そもそも、どんなに売れても私が高山から出ないのは、人気のバロメーター。高山から東京のスタジオへ呼んででも出演してほしい声優、という証なんだ。そんなの未来永劫変わらないと思ってたのに。あら?あれなに?あんなところに社なんてあったかしら?埃をかぶった小さな祠。妙に気になって境内に足を踏み入れる。なかに入ったとたん、なぜだか急に腹が立ってきた。■SE/神社のガラガラを鳴らす音「神様お願い!私、もうこれ以上歳はとりたくない!不老不死になりたい!いいえ、若返りたい!どうか願いを叶えてください!神様!いえ、願いを叶えてくれるならたとえ悪魔でも構わない!」その刹那。突風が私の体を包み込み、空へ抜けていった。悪魔は人間の心に生まれた隙を見逃さない、って言うけど・・・その日の夜。夢を見た。姿かたちはまったく見えない何者かが私に告げている。『願いを叶えてやろう』『お前はいまから若返っていく』『40年経ったら、お前の魂を渡してもらおう』40年後、ってことは80歳か。そこまでいったらもう悔いはないわ。引退すればいい。夢だとわかっていながら頭の中で計算していた。■SE/朝の小鳥のさえずりその日を境に私の体は変わっていった。「なんか、最近肌艶がよくなってない?」「声も前よりすっごく若くなったみたい」「どんなメンテしてるの?教えてよ」アフレコ中のスタジオでみなが口にした。ディレクターもオペレーターも、同期のベテラン声優たちも。プロデューサーは、有名なアニメの有名なセクシーキャラのCVに私を抜擢した。キャラ設定は、33歳。いいんじゃない。最初は単純に喜んでいた。■SE/スタジオのガヤ「ハイ、オッケー!」「おつかれさまでした」10年後。本来なら50歳の年齢だが、私は30歳の体になっていた。TVやニコ生などで呼ばれるフレーズは「時を超えるオンナ」。TVアニメでも映画でも引っ張りだこになったけど、周...
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  • ボイスドラマ「言霊」
    2025/02/13
    『言霊』は、飛騨高山で生まれ育った少女・エミリが、幼い頃に発したたった一つの言葉——「わたし、東京の女子大にいく」——が、彼女の人生を大きく動かしていくお話です。「言霊(ことだま)」という言葉には、不思議な力が宿っています。強く願い、言葉にすることで、未来が変わることがある。時にその力は、本人も気づかないうちに道を示し、導いてくれるのかもしれません。物語の舞台は、飛騨高山。そして東京。厳しくも温かい家族の愛に支えられながら、少女が夢を叶えるまでの10年間。そして、人生の節目で迎えた家族との最後のひととき。夢を追う人にとっての励みになれば、大切な人との時間を振り返るきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。この物語は、Podcast番組『Hit’s Me Up!』 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなど各種プラットフォームでもお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<シーン1:エミリ8歳の冬>■SE/吹雪の音「わたし、東京の女子大にいく」10年前。8歳の私が、真剣な顔で父と母に宣言した。外は吹雪。暖炉の前で父の顔がほころぶ。「それを言霊にしなさい」「コトダマ?」「良い言葉を口にすると現実となる」「ふうん」「もう一回言ってみてごらん」「エミリは、東京の大学へ行く!」父が満面の笑みで大きくうなづく。こうして8歳から、私の長い長い受験生活が始まった。学校とダンスと受験勉強。ダンス、というのは私が1年前からはじめたクラシックバレエのこと。学校の授業が終わると、そのままダンススタジオへ入り、暗くなるまでレッスン。家に帰ってからは夕食後、夜遅くまで受験勉強を頑張った。だって、私が入りたい東京の女子大は超難関の有名大学。高校3年間の受験勉強くらいで入れるとは思えない。そもそも、どうしてその女子大へ行こうと思ったのか。それは、昨日のダンススタジオ。クラシックバレエを習い始めて1年が経とうとしていたとき。私は、右回転でピルエットをすると、どうしても軸足がぶれてしまう。何度やってもパッセが崩れ、着地してしまう私に、インストラクターがささやいた。「見ててごらん」そう言うなり、その場で左へ5回転、軸足を変えて右に5回転した。しかも彼女は目をつむって。軸足はまったくずれていない。華麗でしなやかでクールなテクニック。厳しい指導で有名なインストラクターは、右手をあげたポーズのまま、ゆっくり目をあけて私にウインクした。「この人みたいになりたい」私は幼い心に、固く誓った。先生のことをもっと知りたい。先生のこと、いっぱい教えて。そして、先生が東京のあの有名な女子大出身と知った。私の人生はこの瞬間から動き出したんだ。<シーン2:エミリ18歳の冬>■SE/吹雪の音学校、ダンス、受験勉強。例えるなら、血の滲むような10年間のルーティン。この間、受験勉強だけは1日も休んだことはない。そして10年後の春。私は母と2人、受験の結果を家のリビングで待っていた。受験したのは、超難関大学。あの女子大一択。10年前、父に言われた言霊を信じて。不合格、なんていう未来は私の中にはなかった。目の前にはノートパソコン。合否の発表は、インターネットの受験生専用サイトで、決まった時間に発表・配信される。私はいても立ってもいられず、学校を休んで朝からパソコンとにらめっこ。 父は仕事で出かけている。母と2人、パソコンの前に正座して、運命のときを待っていた。こんなとき、時間の流れはすごく早い。気がつけば、あっという間に発表1分前。ドキドキして心臓が止まりそうになる。ストレスで喉がカラカラになった。 10秒前。母と一緒に発表時間をカウントダウンする。3、2、1、ログイン! 受験者専用の特設サイト。画面いっぱいに番号が並んだ。13765、13984、13990・・・焦らず、焦らず。画面をゆっくりとスクロールする。 14001、14012、そして・・・14015!私の受験番号、14015番が下からゆっくりと現れた!「ママ!」そう言ったきり、しばらく言葉が出てこない。母も私も、無言で顔を見合わせ、瞳を潤ませる。そのとき、私のスマホが鳴った。着信...
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    10 分
  • ボイスドラマ「AIの子守唄」
    2025/02/13
    『AIの子守唄』は、AI技術が高度に発達した未来の高山市を舞台に、ひとりの少女と彼女を守るAIの絆を描いた作品です。先天性心疾患を抱え、生まれながらにして厳しい運命を背負った少女エミリ。そして、彼女を守るために誕生したヒト型AI「SUE(スー)」。「人はAIに命を託すことができるのか?」「感情を持たないはずのAIに“愛”は存在するのか?」この物語は、そんな問いかけとともに、エミリとスーが過ごした日々を綴っています。彼らの物語が、少しでもあなたの心に響くことを願って──(CV:桑木栄美里)【ストーリー】■SE/赤ちゃんの鳴き声+バイタルを表示する音「ピッピッピッ」私は高山市内の総合病院で産声をあげた。そのとき母が医師から告げられたのは、無脾(むひ)症候群による余命宣告。(医学的に説明すると、内臓が左右対称になっているため、脾臓がない。それが原因で、肺動脈閉鎖・高度狭窄(きょうさく)という心疾患を併発)多分、1歳の誕生日も迎えられないだろうと言われた。そのとき母は、AIラボで働くシングルマザー。”どんなことがあっても娘を救ってみせる”鉄の意志で、退院を待たずに行動を開始した。母が働くAIラボは、高山市役所の地下にある。その名をTakayama AI Cyber Electronic Labo=略してTACEL(ターセル=意味「ハヤブサ」)という。国家の命で最先端のAIを極秘裏に研究・開発する組織である。まさか市役所の地下にこんな施設があるなんて、高山市民は誰も知らないだろう。TACELでAI開発のチーフだった母は、完成間際のヒト型AIを密かにコピー。OSを起動させ、無断で自宅へ持ち帰った。そのコマンドは、”将来、先天性疾患の手術ができるようになるまで、娘の命を守ること”。AIは「Save Ultimate Eternal-life」(SUE=スー)と名付けられた。SUEのOSに埋め込まれた駆動コード。そこには法で決められた、『人間に危害を加えてはならない』『上記に抵触しない範囲で、人間の命令に従わなければならない』『上記にに抵触しない範囲で、自分を守らなければならない』というアシモフの三原則より上位に、『娘の命を守る』というコードが優先順位最高位で書き込まれた。スーは、常に私のバイタルを監視する。無脾症候群によるチアノーゼが現れたら、冷静に診断。ショック状態が続く強度のチアノーゼになったら、窒息したり心筋梗塞になる前に、酸素吸入で処置する。心不全や肺高血圧に対する薬物はスーが服用させる。新生児のうちにおこなわれる2回の大手術では、術後の世話をやいた。『大丈夫』これがスーの口癖だ。私の目を優しく見つめ、いつも笑顔で語りかける。スーに守られて、私は命を永らえた。小学校に入るまで、何度もおこなわれた手術。『大丈夫だよ』その都度、スーはこう言って私を励ましてくれる。手術の苦しさに耐えられたのも、スーがいたからだ。『もう大丈夫。よく頑張ったね』私とスーの間には、人間とAIという関係を超えた信頼が生まれていた。『大丈夫。今度も心配ない』8歳になったとき、私の心臓にはペースメーカーが植え込まれた。ペースメーカーは新しい命の鼓動を刻む。私は嬉しくて、外への散歩をするようになった。と言っても、家の前の公園までだけど。それはちょうどスーが充電をしているとき。”公園までひとりで走ってみようかな”そんな気持ちが心をよぎった。”ペースメーカーがあるんだし、きっと大丈夫だ”私は、スーがいないことをいいことに、公園まで走る。あ、大丈夫そう。最初はおそるおそる。途中からだんだん全力疾走になる。”あ・・・”あっという間に胸が苦しくなる。息ができない。スー、たすけて・・・意識が遠のいていった。■SE/病院の心電図の音気がつくと病院のベッドだった。スーがママと話している。どうやら、私の意識がなくなった直後にスーがかけつけ酸素吸入してくれたらしい。病院に運んでくれたのももちろんスーだ。『申し訳ありません』『あなたは悪くない。動きながら充電できるバッテリーを開発するわね』私はママではなく、スーに声をかける。『スー、ごめんなさい』『まあ大丈夫なの?もう苦しくない?...
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    17 分
  • ボイスドラマ「私はだぁれ?」
    2025/02/12
    映画『ブレードランナー』やフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』にオマージュを捧げた物語。高山の総合病院で働く看護師の“私”が、自らの記憶に違和感を覚えた瞬間から物語は動き始めます。日常に潜む違和感、そして自分が何者なのかを問い直すサスペンス。最先端のAIが医療を支える時代、感情の有無が人間らしさを決める世界で、“私”の存在の意味とは?この物語は、Podcast番組「Hit’s Me Up!」 の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種プラットフォームでお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<『私はだぁれ?』>【資料/「ブレードランナー」ワーナーブラザーズ】https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=5■SE/病院の検査室の音「ピッピッピッ」『あなたは誕生日プレゼントに牛革(ぎゅうがわ)の財布をもらいました』『シーフードレストランでエビを注文したら、シェフは目の前で熱湯の中に生きたエビを放り込みました』『昔の映画の1シーンですが、パーティのメインディッシュは犬の肉でした』■SE/病院の検査室の音「ピッピッピッ」『あの・・・教えてください。どうして毎月、こんな検査をするのですか?』『看護師の君だけじゃないんだよ。うちは総合病院だからね。職員のストレスチェックは必須なんだ。だから職員全員にこのチューリングテストを受けてもらっている』事務局長は、機械的な、抑揚のない声で答える。私は今年で10年目を迎える中堅看護師。高山市内の大きな総合病院で働いている。『以上です。お疲れ様でした』「おつかれさまでした」疲れた感満載の声で答える。仕事にもだいぶん慣れたはずなのに、毎月一度のこの検査だけは好きになれない。それでなくても、気がつけば仕事に追われる毎日。ストレスなんて半端ない。唯一の救いは、私のことを誰より理解してくれる彼。週に1度、彼と過ごすひとときだけが、私の精神を正常に保ってくれている。最近は医療の世界にも最先端のAIが入り込み、患者一人一人のバイタルを管理。看護師や薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーたちをひもづけている。それなのに、この忙しさ・・・以前と比べて圧倒的に増えた病人の数と、医療・福祉業界の構造的な問題かしら。どうでもいいけど、疲れた・・・夜勤明けの朝9時、私はぼーっとした頭で帰途につく。宮川の朝市では、おばちゃんが赤かぶを売っている。『今日も夜勤かい。おつかれさま。1個持って持っていきないよ』お礼を言って、色鮮やかな赤かぶを手にする。あれ?でも、いつものおばちゃんじゃないな。初めて見る顔。スマートウォッチに、刑務所から6人の死刑囚が脱獄したニュースが流れている。彼とやりとりするチャットも今日はお休みしよう。早くベッドに入って眠りたい。■SE/朝の小鳥ふぁぁ・・・よく寝たわ。っていうか、夜勤明けってベッドで1日終わっちゃうんだよなあ。スマートウォッチには彼からのチャットが表示されている。あれ?だれ?これ?こんな名前の人、知らない。やだ、ブロックしないと・・・え?『夜勤おつかれさま。昨夜はよく眠れた?』なんで私の仕事をしってるの?でもこんな人知らない・・・名前も、IDに映る顔写真もまったく面識ない人だ・・・彼は?彼からは連絡ないの?私は、スクロールしながら彼とのトークルームを探す。ちょっと待った。え〜っと、彼の名前・・・なんだっけ?顔は?やばいやばいやばい。ちょっと私、どうしちゃったの?私は焦りながら、カメラロールから彼を探す。えっ!?え〜っ!?カメラロールにある彼とのアルバムには、見知らぬ男・・・さっきLINEに送ってきた男の写真がズラリと並ぶ。しかも、何枚かは私が一緒に写ってる。行ったこともない場所で、食べたこともない料理を前に。これ、どういうこと!?いたずら好きな彼のしわざ?いや、そんなこと・・・できるわけない。彼に電話を・・・だめだ、履歴に残るのも知らない名前ばかりだ。そうだ、ママ!ママに電話して・・・やだ、ママの名前がどこにもない!私は思わず、アパートを飛び出す。...
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